4 他人のものを盗むな (『法律学楽想』p255〜257)
年齢とともに他の弁護士に依頼している事案について判断を求められることが多くなった。多くはクレームであり解決の方法はその弁護士によって異なる。といって明言を避けるように心掛けているが、本人の誤解や単なる相性の問題と思われるときは、「俺が頼まれてもそうする。素晴らしい先生に頼んでいると思う。自分の思うことを考えることをドンドン言ってその先生を信頼してやることが最良の解決に至る途だと思う」とか、「常識的な良い先生だと思う。俺もそうすると思うよ」と受任しておられる弁護士さんに最大な賛辞をもって、あるいは少々トーンダウンさせてお引き取り願っている。これだとあとで、体よく追い返された、先生は冷たかったと紹介者に文句を言ってゆかれることはある。
何かの行き違いで不安や不満をもっているのだから、その部分を聞きいれて一緒に先生への不安や不満に共感して欲しい身には、それを肯定しないと冷たく感じるようだ。
過日も古い友人の紹介で来た人が「依頼している先生が若く、その先生の先輩弁護士が相手方について相手方ペースで話がすすむので頼りなく断って、内野先生に頼みたいが引き受けてもらいたいので、着手金いくら支払えばよいか」とのこと。私の回答は「受けないとはいわない。しかし、今は受けられない。その若先生には他にも先輩がおられるはず。その応援を求めるなり、その先生で可能な限りを尽くしてどうにもならず、その先生も万策尽きて引かれるということがあったら相談にのろう」といってお帰り願った。この件を最初に持ち込んだ紹介者からそのとき以来何の連絡もなくそれまでは普通の付き合いはあったのに、以後も何も言ってこない。何となく気まずい雰囲気だ。あのときすぐに事情を話しておけば良かったと反省している。相談者にしてみれば、頼りない先生でもいないよりはよい。頼りになる弁護士にかかる費用との兼ね合いで先任の弁護士を斬るかどうか決めたい。後任の弁護士が高すぎるようなら今のまま辛抱しよう。なぜその選択の機会を自分に与えないのだ!ということでもあろう。
しかし、まだ信頼の糸が細くてもあるうちは仲間の弁護士を大切にしたい。それは彼のものなのだから。他人のものを盗ってはいけない。