法律学の概観


 私のつたない理解によると、学問は形而下学(科学)と形而上学(哲学)に分けられる。

 科学は、客観的に検証可能な価値を求める学問であり、哲学とは検証不可能な「価値」を求める学問である。

 ところで、学問というのは単なる物識りではなく、知と知の関係に関する法則、原理原則から導かれる知の体系である。
 
 形而下学、すなわち科学には三つのものがある。

 自然科学人文科学社会科学である。

 自然科学は自然界の原理原則を発見する学問であって、人間が対象となった場合、生物としての人間、
即ち血液の循環によって生命体を維持している様子等を明らかにする生理学や、この生命体の病理及び
その克服方法を研究する医学がこれにあたる。

 人間をその存在そのものとして研究せんとするのが心理学、文学、歴史学、社会学などの
人文科学といわれるものである。

 そして、人間を他の人間との関係、即ち社会関係として捉え、その作用の研究をするのが
法律学をはじめ政治学、経済学等の社会科学である。

 もちろん、雑駁な言い方であって、それぞれに学際的研究も進んでおり、
かく一律には言えないところも多かろうと思う。今叫ばれる環境学など、
単に自然科学としてのみ把握しきれない広範な研究成果の集積が求められ、
にわかに分類の対象とすべきとも思われない。

また、法についても法心理学などという学問の提唱もあって法を媒介工とする人文科学もありえる。

 この科学を支える思考として人間存在の意味を問う哲学、即ち形而上学といわれる学問の体系があって、
各科学には必ずと言ってよいほどその学問の存在を問う哲学が存している。法哲学、経済哲学等々である。

 しかし、伝統的考えに従っていえば、法律学は前述の通り、法を媒介として人と人との関係を研究する社会科学であろう。

 さて然らば、その法律学とは何か。法律学には法事実学法価値学法規範学が含まれている。(峯村光郎の分類による)

 法事実学というのは、法が事実としてどのように存在し、どのように機能しているかを研究するもので、
法史学、比較法学、法社会学などがこれである。
 法価値学というのは、あるべき法とはどんなものであり、法をして法たらしめている価値は何であるか
を研究するものであって、法政策学と法哲学がこれに属する。
 法規範学とは、法解釈学であって、既存の法律の意味内容を確定する〜即ち法が適用される限界を
明らかにする学問である。

 通常、法律学といっているのは最後に挙げた法解釈学を指す。

 民法の解釈を事とするのが民法学であり、刑法のそれは刑法学と呼ばれる。
これらの学問は字句の解釈であるから古文の解釈と選ぶところのない退屈さと面白さを兼ね備えている。
ただ、法律は一人の作者の創作品と異なり、政治闘争の歴史の上に思索を積み重ね、生活利害衝突の
調整についての苦労と思考を更に積んだ上で制定されているので、それらの積み重ねをどれだけ現状に生かすのか、
それとも否定するのか、更なる思考が求められ、諸君も含めた法学徒が日々苦闘しているところである。

 法解釈学は、人間というもの、その作る社会、そして国家とその統制手段たる法律についての歴史と現実という、
深さと広がりをもつ興味深い学問であることを繰り返し解いておきたい。

 かつて法解釈学は科学足りえるかという議論が繰り返されていた。

 私の現在の理解によれば、解釈者の価値判断、哲学的または形而上学的判断に従ってなされる検証不可能な
科学を越える部分を「本籍」とし、制定法という文言に縛られた検証可能な科学といいえる部分を「現住所」とする複合的な、
いわば哲学と科学の学際的学問であって、それだけに困難でもあり、興味深い学問であると考えている。